フィクション

 私には両親と2歳上の姉がいる。2人姉妹だ。家族は仲が良く、まずまず裕福な家だった。おもちゃやゲームは一通りあったし、月に一度は外食をした。姉も私も塾に通い、奨学金なしで大学に入学した。

 姉は大学を卒業するとすぐに結婚し、実家近くに家を建てた。子宝にも恵まれ子供2人を授かった。私にとっても可愛い甥と姪だ。

 私は大学卒業後、実家を出て一人暮らしを始めた。両親は「このまま実家に住んでもいいよ」と言ってくれたが、正直一人の方が楽だ。好きなだけ夜更かしして、好きなものを食べる。とはいえ住み慣れた街を離れるのもめんどくさかったので、実家から一駅離れたアパートに住むことにした。

 私たちが家を出て数年後、父は定年退職した。今は母とともに年金暮らしをしている。毎日暇なのだろうか、しょっちゅうLINEが送られてくる。

 実家の近くに住んでいるが、なかなか帰る機会がない。機会がないというより、あまり帰ろうという気持ちになれないのだ。会うたびに老いている両親を見るのがしんどいし、いつまでも独身でいることが何となく気まずい。一人暮らしを始めてすぐは月に2,3回は帰っていたのが、だんだんと足が遠のいていった。

 最近では家族全員で集まるのは盆と正月だけだ。私と、姉家族が実家に行く。甥と姪がまだ小さいので、家族で集まると人数以上ににぎやかに感じる。母も私たち姉妹もよくしゃべるので、父と義兄は若干肩身が狭いようだ。2人は隅っこで日本酒を飲んでいる。

 僕は大学卒業後、地元ではなく東京の企業に就職した。職場は新宿西口のオフィス街にある。窓からは都庁が見え、田舎で育った僕からするとテレビで観た世界だ。

 仕事はめちゃくちゃ忙しい。分からないことだらけだし、上司に聞いても怒鳴られるだけで何も教えてくれない。部署には年が近い社員がおらず、僕は孤立していた。さらに同僚以外で東京に知り合いが全くいないので、休日はずっと家にこもっている。引っ越してきてすぐは一人で都内をあちこち見て回ったが、今は外に出る気がしない。

 夢を見た。私には弟がいる。
 6つ年が離れた弟。
 末っ子長男ということで甘やかされて育った弟。
 大人になるにつれて父に似てきた弟。
 いつも指輪やネックレスをつけていた弟。
 大学を出て上場企業に入社した弟。
 上司のパワハラが原因で自殺した弟。

 盆や正月に実家に集まるとき、弟は黙々とビールを飲んでいた。家族の前では口数が少ないが、外ではよくしゃべるらしい。昔、電車でたまたま弟を見かけたことがある。私がいることに気付いておらず、友達としゃべっている姿は確かに家では見せない顔だった。

 目が覚める。私たちは2人姉妹の4人家族だ。家族写真は4人で写ってるし、実家に子供部屋は2部屋しかない。あれ?3部屋あったっけ?子供部屋は2階にあった。2階にあるのは姉の部屋、私の部屋、父の書斎、和室の4部屋だ。いや、父の書斎なんてあったか?記憶が曖昧だ。まだ寝ぼけているのかな。

 もし弟がいたらどんな感じなんだろう。2人でご飯に行ったりするのだろうか。プリクラを撮ったりするのかな。全く想像がつかない。でも面白い夢だったな。

 僕は23歳で死んだ。「死んだら存在ごと消滅してほしい」と願った。僕の痕跡はこの世から全てなくなれ。人々の記憶から消えてくれ。僕が写っていた写真から僕は消えるし、僕が送ったLINEも消える。最初からいなかったことにしてほしい。そうすれば誰も悲しまなくて済む。両親や家族の負担になりたくない。孫に囲まれて楽しい老後を過ごしてくれ。友達に何かを背負わしたくない。同級生が自殺した世界線なんて後味悪いだろう。学生生活を楽しい思い出だけで埋めてほしい。

 ちゃんと叶ったみたいだ。良かった。

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